episodo-1 詐欺師と愉快な仲間たち!?
MEMORY 2 アマトス事件簿、二十四時 (3)
前へ | 目次へ | 次へ

 時は、夕べに遡る――。
「〈アナザー・オブ・ガルーダ〉……もうひとつの女神……か」
 ノースは椅子の背に両手を乗せ、その上に顎を乗せる体勢で、リオルを見返した。
 納得してるとは言いがたい。伏せ目がちな表情である。
「えぇ、そうです」
 と、コックリ頷くリオル。
「その名のとおり、この国の守護神であらせられる女神ガルーダの分身とも言われています。初代バランゲル王が即位した折に、友好の印として贈られたそうで、以来、王家の至宝として厳重に保管されてきました」
「王族の姫が、巫女として女神に召し上げられる……って話は、聞いたことあるけどな」
「ええ。現在の巫女は、バランゲル八世陛下のご息女であらせられる、サリティア殿下です。僕は、姫様の教育役として王家にお仕えしていましたが、可憐でお優しい方ですよ」
「……なるほどね」
 先生馬鹿丸出しのリオルに苦笑してから、ノースは渋い表情になった。
「それで。なーんで女神の話題に、レンゲルが混じってくるんだよ」
 リオルが、大きくため息を吐く。
「盗まれたんですよ。正確には、略奪された……と言うべきでしょうか。三年前、反王権派のクーデターが起こった時に持ち去られたんでしょう」
「反乱ついでに、金目の物を根こそぎ持ってく……よくある話だね」
「問題は、それが女神の杖であるということなんです……女神がクーデターの後姿を消したことはご存じですよね?」
「そりゃあね――ガルーダは、国の守護者の前に、バランゲル王家の守護者。守るべき王家が散り散りバラバラになったんで、愛想を尽かして出て行った―― 一時期けっこう噂になっていたからな……誰でも知ってるだろ」
「女神が所在不明になったことを、一番初めに気付かれたのは、やはり巫女である姫様でした。元々巫女というのは、女神に仕える者のことではなく、女神の加護を得る者のことを言うんです――つまり、女神はバランゲル王家を守護しているのではなく、個人的に姫様を守っているわけですね。しかし、その姫様に何の言伝もなく、忽然と消えてしまわれたんです。おそらくは……」
 そこまで言うと、リオルはさらに苦々しい表情になって、口を噤む。
 すかさず、ノースが言葉尻を繋げた。
「――女神は無理矢理行方不明にさせられた……つまり拉致されたってことか?」
「えぇ……おそらくは……」
 頷くリオル。
「姫様の呼びかけにも応答がありませんし。それで、女神と対になる〈アナザー・オブ・ガルーダ〉になら、何かしらヒントがあるのではないか。そう考えて、密かに屋敷に使者を送ったのですが……」
「杖はとっくの昔に盗まれてた。その杖を、どういうわけか今はレンゲルが持ってる……そういうコト?」
「はい……正解です」
「まぁ。奴さんならあり得そうな話だなー」
 ノースは唸った。
「……なにしろ、ユニオンで一番腹黒い奴だし。クーデター派と繋りがあったって、ちっともおかしくないからなぁ……」
「ええ。だからノースさんに応援をお願いしたんです。本当、頼りにしてますよ」
 ははは……と、力無く笑うリオル。その顔を見て、ノース。
「王族や女神がどうこう……ってのは置いといて、いいよ、別に。取り返してやるよ」
 そのまま、リオルの返事を待たずして後を続ける。
「――でもな。それって、俺もあいつと同じ位腹黒いって意味になんないか?」
「え――――!?」
 リオルが笑ったまま硬直した。
 夜は更けていく――、
 漆黒の空には、月が闇を切り取ったように白く輝いていた。

前へ | 目次へ | 次へ