episodo-1 詐欺師と愉快な仲間たち!?
MEMORY 4 穴の底で待ってたヒトは…… (5)
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 地上に出る抜け道を教わり、ノースが地上に出たとき、すでに日は傾きつつあった。
 アマトスを出て四日目――この一件に巻き込まれて五日目――が終わろうとしている。
 ヒョウと雄馬を迎えに行き、〈女神の杖〉を引き上げてに戻ってきた時には、すっかり日も堕ちて――どのみち地下なので――真っ暗になっていた。
 結局、杖はヒョウに命綱を着けて引き上げさせたのだが、そのヒョウはというと、レナとさっそく打ち解けて、二人は仲良く夕食を準備したりもしていた。
 因みに、その味は――というと、
 アル曰く、
「身に余る光栄です」
 ノース曰く、
「……ノーコメント」
 であるらしい。
 そして、その晩――。
 ガルーダの巫女は、女神の分身とも言われる〈もう一つの女神〉を用いて、女神と交信すべく儀式を行った。

「……結論から言うと、ガルーダと直接話すことは出来なかったわ……」
 一同を見回して、レナは残念そうに項垂れた。
「なんていうのか……繋がりそうなんだけど、もう少しってところで邪魔されるの」
「連中が妨害をかけてるってコトだな」
 ノースが言うと、コクッと頷く。
「……たぶん。漠然とした方角は分かるんだけど、途中で跳ね返されちゃうのよ」
「でも、女神様は無事なのですな? 姫様?」
 アルが尋ねる。
 その――分厚い胸板を包帯で覆った――痛々しい姿に、優しく微笑みを返すと、
「ええ。それは間違いないと思うわ」
 と、レナ。
 粗末なテーブルを、ラムバーダン人と、アルビノの美少女と、身長二メートルを超す大男が、囲んで密談している。かなり怪しげなシチュエーションであった。その上、狭い部屋なので定員ギリギリである――ヒョウなどは床に寝っ転がって熟睡していた。
 天井に吊されたカンテラが、ぼんやりと室内を照らしている。獣油が燃える匂いが、ほんのり充満していた。
「で――」
 と、ノース。
「結局、女神さんはどこにいるんだ?」
「海の近く――かしら?」
 少し考えてから、レナは自信なさげに答えた。
「ここからじゃ遠すぎてよく分からないけど……でもアルバまで行けばハッキリすると思う」
「アルバか……」
 興味の薄い反応をして、ノースは明後日の方向を見やる。
「ねぇ……あなたたちは、これからどうするの?」
「……さぁねぇ」
 ポツリと言う。途端――、
「――決まってないの!? よかったぁ!」
 レナは、ガバッと身を乗り出してきた。
「じゃあ、このまま私たちにつき合ってよ!」
「…………」  
 見ると、金色の瞳をキラキラさせ、期待に満ちた表情で手を組んでいる――つまり『お願いポーズ』をしていた。
 ノースが黙っていると――実は、すでに次の言葉を予測済で、げんなりしていたのだが―― レナは、その眼前に、ビシリと指を突き付けた。
「だいたい、ここまで首突っ込んでおいて、今さら無関係を装おうなんて、そうは問屋が降ろさないわよっ」
 そこまで言ってから、急に――普段ノースがやるような――ニヤリとした、明らかに底意がある微笑を浮かべる。
「……それとも、何? アマトスの市議会に突き出されたいぃ〜? ねぇ、アル?」
「そうですな。それもよろしいかと――」
「オーッホッホッホ……あなたも悪い人ねぇ、アル」
「いえいえ、姫様ほどでは」  
 二人とも、予め打ち合わせでもしたのか、完全に『悪代官』と『越後屋』になりきっている。
「どうなの?」 
「分かったよ……」
 と、ノース。眼前の二人を代わる代わる見比べると――フッと鼻から空気を抜いた。
「まったく……この知能犯どもが――」
「ふふっ」
 レナが、アルと顔を見合わせて、笑った。
 ゴロリと、ヒョウが床の上で寝返りを打つ。いい夢でも見ているのか――眠ながら笑っていた。
 その実に楽しげな雰囲気の中――仏頂面のノースだけが、ひとり蚊帳の外であった。

「……そうか」
 その女は、静かに口を開いた。
 なんの意味も持たない音を、ただ発するかのように――自らの発言に全く興味を示さない。
「死んだか」
「はい」
 と、女の背後に影のように佇む男が、僅かに頷く。
「先刻、レイダック殿の死亡を確認しました」
「――ラムバーダンと、バランゲル八世の息女めに、やられたようです」
 隣の少年が、後を継いだ。
 女がゆっくりと顔を上げる。
「ガルーダの巫女か……」
 その視線の先には、ガックリと項垂れる人影があった。
 こちらも女である――両手を縛り上げられ、吊されている。固く目を瞑じ、死人か人形のようにピクリともしない。二人の女は、外見こそ違っていたが、それでいて対のカードのように似た雰囲気の美女であった。
 その美女の片割れ――波打つ黒髪も美しい妖艶な女は、眼前のもう一人を見据え、呟いた。
「あの時のラムバーダンがな……。障害にはならぬと思っていたが、少々緩かったか……いや、そもそも考え違いだったな――」
 そして、にわかに表情を険しくして、踵を返す。
「どちらにしても、これ以上は野放しには出来ぬ! あれだけ捜しても見つからなかったガルーダの巫女が、わざわざ自分の方から出てきてくれたのだ……この好機を逃したとあっては、我らが盟主の名に傷が付こうというもの。のう――そうであろう?」
 彼女の問いに、兄弟が静かに頭を垂れる。
「御意に……」
「仰せのとおりです……」
「うむ」
 その仕草に満足したように――女は大仰に頷くと、二人のさらに背後にある玉座のような造りの壇上へと、視線を転じた。
 玉座には、すでに性別ですら判断不能なほど、齢衰えた老人が腰かけている。
 その第五の人物は、動くことなく鎮座していた。黙したままで、決して口を開くこともない。 ただ、その生気のない瞳だけが、彼女の姿を求めて、微かに動いていた。
「…………」
 老人の枯れた唇が、ほんの少し――言葉を発しようと――動き、薄く息を漏らしたのを見て、
 黒髪の美女――リリスは、嘲笑を浮かべた。
「御心配なく。すべてがあなたの望むままに運びましょう――我が盟主、ガーデンよ」
 その笑みは、さながら蛇の一睨みであろうか――彼女の二人の息子たちは凍り付き――、
 そして、事態は風雲急を告げる。

 アナザー・オブ・ガルーダ――もう一つの女神――。
 その、真の意味を知る者は、すでにこの国のどこにもいない……。
 棄てられた者と、忘れられた女神の、復讐の鐘は、まだ鳴り始めたばかりであった。

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